AUREX PC-X80AD
AUREX(東芝)が1978年に発売した当時の同社最上級モデル。受注生産品で定価は\178,000もしました。独自のノイズリダクションシステムadresを採用し、ダイナミックレンジはカセットデッキとしては驚異的な100dBを実現しました。また、 メタルテープにいち早く対応したモデルで、本体後部のスイッチでフェリクローム対応かメタル対応のどちらかに設定変更出来ます。2ヘッドでシングルキャプスタンというオーソドックスなメカですが、このモデルの最大の特徴は レベルメーターにプラズマ式を採用しているところです。チャンネルあたり201個のセグメントを使っており、とてもなめらかな動きでアナログメーターのような 細かな読み取りが可能です。プラズマ式はレコーディングスタジオのミキシングコンソールで時々見ますが、家庭用オーディオ機器では同じAUREXのプリアンプSY-99くらいでした。幻のデッキと言ってもいいこのカセットデッキを手に入れたい。プラズマ式メーターを見てみたいと某オークションでずっと探していましたが、かなりレアなデッキのようでなかなか出品されなかったのですが ようやく最近落札出来ました。
出品の説明ではヘッドは上がるがリールが回らないということでした。
オレンジ色の無誘導ポリエステルフィルムコンデンサ(Vコン)が多数使われており、トランスは2個で銅箔が貼られています。けっこうお金がかかっている感じです。電源部にはAUREX自慢のΛコンデンサーが使われています。幸い、結束バンド等も古いままで、中身はまったくいじられてないようです。
走行不良の修理およびメンテのためにメカ部を取り外します。かなり重いアルミダイキャスト製のフロントパネルに太いネジ4個でがっしりと固定されていますが、取り外しはわりと楽なほうです。ロジック回路はメカ部の後ろに付いています。
溶けたベルトがキャプスタンホイールにこびりついてました。これはヘラのようなものではがして、軽く磨いたあとアルコールできれいにしました。この溶けたベルトはベトベトの黒いインクのようなもので、あちこちに付くと厄介なことになります、服につくとまず落ちないでしょう。ゴムベルトは5本も使われていますが使えるのはカウンター用の1本だけでした。残りは手持ちのものや千石通商に注文して何とかそろえました。
メカ部を徹底的に洗浄し、適所にグリスアップとオイル。オーソドックスな2モーターで、キャプスタン用と巻き戻し早送り用で分かれています。メカの作動はモーターではなくプランジャー(電磁石)によるもので、先にメンテした同時代のSONYのTC-K7BⅡ同様、がっしりとした造りで丈夫に出来ています。めったに壊れそうにありません。
オールセンダストのヘッドはほとんど摩耗はありませんでした。くすんでいたのでマイクロコンパウンドで少し磨きました。この方法はあまりお勧めしません、間違えたらヘッドが死にます。
でも、ヘッドがきれいだと精神衛生上いいです。
フロントパネルを取り外して洗浄中。しかし、アルミダイキャスト製フロントパネルの重いこと。このデッキは重量が12kgもあります。中央に見えるのがプラズマ式レベルメーターのユニットです。メーターが生きているかまだ分かりません・・・
録再切り替え用やadres切り替え用の長いスライドスイッチが酷い接触不良でしたので、取り外してメンテしました。今までは2000番くらいの紙ヤスリで磨いてましたが、今回はマイクロコンパウンドを綿棒に付けて磨いた後、接点復活剤を塗布しました。写真は磨いた跡と磨く前の接点です。同様なスイッチが全部で3個ありましたが全部分解掃除しましたが、かなり疲れる作業でした。
洗浄したフロントパネルを取り付けし再生テスト。レベルメーターもちゃんと表示されて正常に再生しました。よかったー。録音もばっちりです。再生レベル・録音レベル・テープスピード・アジマス等を調整して整備終了。別売りの有線リモコンも付いていましたが、プラスチック製であまりに安っぽい造りです。せめてもう少し重量のあるアルミ製にして欲しかったです。
これがプラズマ式レベルメーターです。非常に細かい動きがすばらしい。また、同時代のSONY製液晶メーターのような経年劣化がまったく見られないのがいいですね。ピークホールドが無いのが惜しいところですが、プラズマ式ってピークホールドはむずかしいんじゃないかな。このディスプレイ自体かなりのコストがかかったらしいです。
2ヘッドではありますが、かなりいい音です。adresをonにしての自己録再ではカセット特有のヒスノイズがほとんど聞こえません。100dBのダイナミックレンジ、SN比80dBという、当時のカセットの限界に挑戦したデッキです。当時の東芝はこのような力の入った製品をたくさん世に送り出していました。AUREXが根強く人気あるのも納得です。
フロントパネルはアルミダイキャスト製の一体成形パネルで、高い剛性を保っています。このデッキ、ホントに生産台数が少ないみたいですね。
上に乗ってるのはグリーンのアナログメーターが美しい同社のPC-X88ADです。
動画をアップしました。実際はもっとオレンジ色です。
「アナログ式と同じような細かい読み取り。しっとりとした落ち着いた色調は、目を疲れさせません。」当時のカタログから。
2012年7月、再生中に突然停止! 修理記録。
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